小野和子『あいたくてききたくて旅にでる』(PUMP QUAKES)

 

・最近知ったのだが、江戸明治に生まれた落語を「古典落語」といい

 大正時代以降の落語を「新作落語」というのだそうだ。勝手に戦後できた

 落語が「新作落語」だと思い込んでいた。

・小野和子『あいたくてききたくて旅にでる』を読了!

 民話も桃太郎や花咲じいさんのような古い昔ばなしだけが民話だと

 思い込んでいた。この本を読んでそうではないことがいまごろに

 なってわかった、とは情けない。

         

・この本を読んだきっかけはNHK Eテレ「こころの時代 ほんとうを探して」

 という番組を見たから。小野和子さんの宮城県内を歩いて民話を探訪する

 姿は宮本常一に見えてきて興味がわいた。

         

・すぐにこの本が欲しくなって、ふと思い出したのが、仙台の本屋「button」の

 オンラインサイト。あそこならあるだろうと思ったら的中した。

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仙台 button の実店舗

         

・この本で民話のイメージは変わった。はなしは生活環境が反映されている。

 姑から逃げられない嫁さんとか。子供のいない年寄夫婦のはなしは身に

 つまされる。戦争や災害など厳しい現実が背景にあって生まれてきた民話

 もあるとは。

・そういう民話を聞かせてもらう小野さんの立ち位置も考えさせられる。

調子よく「味方」という言葉を口にしないところに自分を置いて、そこから

ものを見ていきたいと思っているのだ。

・都会からきた学者風でなく、しゃべり手の立場を深く考えているから

 民話を聴きだせるのだ。

・「オオカミのまつ毛」のはなしもいいなあ。こころを鎮めるちからが

 民話にはあると。水上勉「現代民話」のはなしは、あっと思わせて

 くれた。民話は作られたものだけでなく真実も隠れていると。

         

・この本の最後にはあの濱口竜介監督も文を寄せている。

小野さんは繰り返し、「聞く」とは古い自分を打ち捨てていくこと、

自分自身を変革することなのだと言われました。

 というのが印象に残る。

濱口竜介監督のプロフィールのなかに著書「カメラの前で演じること」に

 小野和子との対話が詳細されているとある。なんてこった、この本は

 持っていたのだが読まずに売ってしまった。それもサイン入り、とほほ。

         

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東北記録映画三部作<記憶の蔵>上映会パンフ

・もうひとつとほほのはなし。2015年に東北記録映画三部作を千駄木

 記憶の蔵で上映会があった。わたしも「なみのこえ 新町編」を見ていて

 このとき濱口竜介監督のあいさつもあったのだが、なんと小野和子さんの

 映画「うたうひと」を酒井耕・濱口竜介共同監督で撮っているのだ。

 その上映にあたって小野さんの講演をやったとは。もっと早くに小野さんを

 知っていれば、残念です。映画「うたうひと」はいずれ見たいものです。

・だらだらと書きましたがこの本はことしのわたしにとってのベスト本です。