声薫る夕べ

マッキントッシュフォトショップもなかったころ、
 広告のデザインラフはもっぱらモノクロコピー。
・雑誌や写真集からモデルさんとか、インテリアとかの
 写真をモノクロコピーして切り抜いて張り合せていた。
・プレゼンテーションでデザイナーはやりたいデザインを
 ことばで補っていた。対する宣伝担当もこの切り貼りコピー
 デザインラフをみながら、出来上がりのイメージをつかもう
 としていた。
・プレゼンテーションがうまくいくのはデザイナーと宣伝担当の
 間につたないラフから同じイメージを共有できた時である。
・昨日は、谷中アフリカ市場タムタムで「語り」で愛でる
 北村薫作品 声薫る夕べvol.3公演を観る。
・まず小池純一郎さんの三味線。ふとざおを奏でる小池さんは
 堂々としていて貫禄がある。
・次に田中裕太郎さんの語り。北村薫作品「弟」を語る。
 暗転から和服の田中さんが浮かび上がってくる。
 タムタムの奥の2畳の間が舞台なのだが、これがこの田中さんに
 ぴったり。壁に掛かっているアフリカのくわがいいポイントに
 なっている。
・落語がはじまるのかと思った。ちょっと違う。手には本を持っている。
 ひとり芝居でもない。これが語りなのだろう。「弟」はなかなか
 複雑なはなしで老人のあたまのなかで過去と現在が交錯している。
・田中さんの表情が実にいい。遠くをみつめている瞳のなかでライトが
 きらっと光ったりする。息をのむ。
・休憩をはさんで、北原久仁香さんの「歩く駱駝」と「四角い世界」
 北原さんの声のよさはお墨付き。舞台うらからの音が効果的で、
 どんどん物語の世界に引き込まれていく。
・ことばによってイメージを共有するという心地よさを久しぶりに
 思い出させてもらった。