又吉に火花

・父とはなしをしていて、突然
 「又吉よりおれのほうがいいもの書くよ」と。
 それこそ火花を散らしたのですが。ちなみに
 わたしの父は本を読まない。
・どんな小説を書くの、と聞いたところ軍隊の
 はなしになった。
      
・父が入隊したのは、練習生として三浦三崎に配属に
 なった。ある日、茅ケ崎まで30kmを歩くということ
 があって、やっとの思いで茅ケ崎について、地元の人達が
 兵隊さんに食べてもらおうと赤飯を炊いて待っていて
 くれたそうだ。
・それをみた一部の兵隊さんが、列を乱して赤飯に駆けつけた
 ことがあった。それを見ていた上官が怒ってみんなに赤飯を
 食わせず、自分ひとりで食べていたそうだ。
・そのあいだに立つ軍曹(?)が土下座して謝ったけど、
 なかなか許してもらえず、3時間後にやっと赤飯を食べること
 ができたそうだ。
・また、帰りは30kmの道のりを徒歩で帰ったという。この時
 には死者もでたというほど厳しいものだったらしい。
      
・こういうはなしを聞くといかに軍隊の上層部がいい思いをして
 権力を発揮していたということがわかる。戦地での経験はない父
 だが軍隊とはどういうものであったかということがすこしでも
 わかる。直接聞くことができるというのは貴重なこと。
      
・父の兄、つまりわたしの伯父は近衛兵として家族で満州に行って
 いた。引き揚げてくるときにいとこが二人亡くなっている。
 詳しいことはよく知らない。伯父も伯母もこの世にはいない。
・戦後に生まれたここのいとこに聞いてもほとんどははなして
 くれなかったそうだ。
      
・母方の伯父は元特攻だった。戦後は、日本航空パイロットに
 なったのだからすごい。やさしいのだが怖い人だった。
 わたしが小学校3年生だったか、プールに連れていってもらった。
 まだ、わたしは泳げず浮かんでいるだけだったが、この伯父が
 いきなりわたしのあたまを掴んで沈めたことがあった。もがいて
 水を飲んでしまって、それこそ死ぬかと思った。特攻の伯父から
 したら弱いわたしが許せなかったのだろう。それ以来、泳げる
 ようになったのだから伯父には感謝している。
・この伯父も戦争のことなどはなしをせず亡くなった。
      
・最近読んだ本。「戦争がはじまる」福島菊次郎全仕事集(社会評論社)。

 あとがきで福島の軍隊体験が書かれている。
 この本の発行は1987年。いまよりも平和だった時代に戦争が
 はじまると警告している。

戦争がはじまる―福島菊次郎全仕事集

戦争がはじまる―福島菊次郎全仕事集

・戦後も戦争をひきづっている人々を写真に収めた写真集です。