8月16日

・14日に墓参りに行き、実家に顔をだした。10月に90歳になる
 父は近年になく元気だった。
         
・父は怒らない人である。怒ったはなしを聴いたのが1回。
 怒っているのを見たのが1回。わたしが怒られたのが1回。
 子供のころ、怒られたことは全くない。怒られたのは、
 5年ほど前のこと。理由は忘れたが「お前がちゃんとしないから
 いけないんだ」と。初めて怒られたものだから、こちらは
 どう対応していいかわからずどぎまぎしてしまった。
         
・父は泣かない人である。泣いたのは見たことない。母が
 亡くなった時でさえ泣かなかった。
・今回初めて泣いたはなしを聞いた。5歳の時に養子に出されそうに
 なったそうだ。ばあさんに連れられて新町の老夫婦の家に行った
 そうだがいやだと泣きじゃくったそうで、そのままばあさんが
 連れ帰ってきたそうだ。
         
・父は女性のファンが多い。まあ優しい人であるからなのだが、
 そうなのだが。もてるというのとも違う気がする。
・あれは、まだ父がレッズのボランティアをしていたころだけど、
 きれいな女性が「よしいさ〜ん!」と手を振ってこちらに
 向かってきた。こんなきれいな女性に知り合いはいないよ、
 と思っていたら、そのきれいな女性は父の手を取って
 「久しぶり、会いたかった」といっている。わたしは嫉妬した。
・30年ぐらい前に上野の松坂屋にあった古くから出入りしていた
 釣り道具屋にいっしょに行ったとき、そこの女店主が父をみて
 「来たな美少年」と言ったのにはびっくりした。まあ、江戸っ子
 のイキなあいさつだったのかもしれない。
・余談だが、デパートの1階に釣り道具コーナーがあったとは
 いまでは想像もできないよね。いくら下町とはいえ。 
         
・きゅうになにを思ったか「8月16日だ!」と父は話し始めた。
 昭和16年の5月に国鉄の就職試験を受けたのだが、なかなか
 返事が来ずに採用通知が来たのが8月16日だったそうな。
・父は15歳だな。開戦の5か月前か。こんな時期にもしも
 国鉄に入らずにぷらぷらしていたら……と思うと、
 8月16日というのは記念日なのかな、と。