・深谷の須方書店にて帳場の前に積ん出あって一番上に
乗っていたのこの文庫。チラッと目次をみたら
土田玄太(田中小実昌)が見えた。オッ!なんだ、
土田玄太って、で購入。100円でした。
・土田玄太は本名なのかな。文章の注意書きを読むと
田中小実昌の最初のエッセイのようだ。
題は「やくざアルバイト」
・買ってからまた目次を見直したら、山之口獏が
との対談。題は「貧乏三詩人大座談会」
*
・奇談、珍談を集めたアンソロジーです。1989年発行で、
はなしの内容は主に貧乏話、酒の失敗談、悪い女癖と
いったところでしょうか。時代は戦前から戦後すぐぐらい
のこと。混乱の時代だからということもあるでしょうが、
それにしてもまだ社会が相当ゆるかった。
・また、ひと付き合いの濃さがいまとは全然ちがう。たとえば、
中村光夫は「とんでもない厭な人」といいながら「はなしを
ことをけちょんけちょんに言っていたようだ。題名は「狂気
の文学者・永井荷風」この本の全体を通していえることだが、
どんな奇人変人であっても当時のひとは見捨てないというのが
現代とは違う。
*
・将棋の名人木村義雄が将棋のことではなく、釣りの佐藤垢石の
ことを書いている。「愛すべきドロ亀・垢石一代記」
・山本嘉次郎「カツドウ屋奇人伝」もすさまじい。
女好きも具体的に孫が語っている。渋沢秀雄のエッセイは
読みたくなったなあ。
ことがあるなあ。その1か月後ぐらいで亡くなってしまったが。
・福島慶子「うちの宿六」ではもちろんダンナのことを細かく
書いている。この文章を読んだダンナのことを「うちの宿六(続)」
としてあがっているのはおもしろい。
・徳川無声が「獅子文六行状記」を書いているが、その無声の
大酒飲みのことを山本嘉次郎「無声”アル中人生”の泣き笑い」
としている。
荻窪駅から反対の方向に乗ったらしく、なんでも八王子か浅川
あたりまで持ってかれて、それから引き直して、今度は東京駅
まで持ってかれて、それから歩いて自宅まで帰ったらしい
というのは内田百閒、宮城道雄と徳川無声の家で飲んだ
獅子文六の行状である。わたしの経験と似ている。
*
・この本のなかで一番こわかったのが東郷青児「ヘソのない女」
である。ほんとにヘソのない女がいたらしい。
*
・この文春文庫のアンソロジーシリーズに「孤高の鬼たちー
素顔の作家」というのがあるそうで、このなかで山之口
静江「貧乏詩人の妻といわれて」というのが入っている。
これは是非とも探して読まなければならない。