『なんだか・おかしな・人たち』文藝春秋編(文春文庫)

 

深谷の須方書店にて帳場の前に積ん出あって一番上に

 乗っていたのこの文庫。チラッと目次をみたら

 土田玄太(田中小実昌)が見えた。オッ!なんだ、

 土田玄太って、で購入。100円でした。

・土田玄太は本名なのかな。文章の注意書きを読むと

 田中小実昌の最初のエッセイのようだ。

 題は「やくざアルバイト」

・買ってからまた目次を見直したら、山之口獏

 飛び込んできた。ラッキー!。金子光晴草野心平

 との対談。題は「貧乏三詩人大座談会」

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・奇談、珍談を集めたアンソロジーです。1989年発行で、

 はなしの内容は主に貧乏話、酒の失敗談、悪い女癖と

 いったところでしょうか。時代は戦前から戦後すぐぐらい

 のこと。混乱の時代だからということもあるでしょうが、

 それにしてもまだ社会が相当ゆるかった。

・また、ひと付き合いの濃さがいまとは全然ちがう。たとえば、

 中村光夫は「とんでもない厭な人」といいながら「はなしを

 聴くのが楽しみだった」と書いている。石川啄木荷風

 ことをけちょんけちょんに言っていたようだ。題名は「狂気

 の文学者・永井荷風」この本の全体を通していえることだが、

 どんな奇人変人であっても当時のひとは見捨てないというのが

 現代とは違う。

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・将棋の名人木村義雄が将棋のことではなく、釣りの佐藤垢石の

 ことを書いている。「愛すべきドロ亀・垢石一代記」

山本嘉次郎「カツドウ屋奇人伝」もすさまじい。

渋沢秀雄「渋沢一族」は、大河ドラマにもでてきた渋沢栄一

 女好きも具体的に孫が語っている。渋沢秀雄のエッセイは

 読みたくなったなあ。

阿佐田哲也「一刀斎の麻雀」で五味康祐のことを書いている。

 五味康祐サンケイビルのエレベーターでいっしょになった

 ことがあるなあ。その1か月後ぐらいで亡くなってしまったが。

・福島慶子「うちの宿六」ではもちろんダンナのことを細かく

 書いている。この文章を読んだダンナのことを「うちの宿六(続)」

 としてあがっているのはおもしろい。

・徳川無声が「獅子文六行状記」を書いているが、その無声の

 大酒飲みのことを山本嘉次郎「無声”アル中人生”の泣き笑い」

 としている。

荻窪駅から反対の方向に乗ったらしく、なんでも八王子か浅川

あたりまで持ってかれて、それから引き直して、今度は東京駅

まで持ってかれて、それから歩いて自宅まで帰ったらしい

 というのは内田百閒、宮城道雄と徳川無声の家で飲んだ

 獅子文六の行状である。わたしの経験と似ている。

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・この本のなかで一番こわかったのが東郷青児「ヘソのない女」

 である。ほんとにヘソのない女がいたらしい。

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・この文春文庫のアンソロジーシリーズに「孤高の鬼たちー

 素顔の作家」というのがあるそうで、このなかで山之口

 静江「貧乏詩人の妻といわれて」というのが入っている。

 これは是非とも探して読まなければならない。