自然の恩恵

「これなんだわかります」と、梅沢珈琲店店主が、
ピンポン球ぐらいの大きさの茶色い実を目の前に置いた。
「ライチですか」とわたし。こたえは「とちの実」。
常連のお客さんが井の頭公園で拾って持ってこられたそうだ。
そこへその常連のお客さんが登場。
井の頭公園には、何本ものとちの木があるそうで、
近くのお年寄りがとちの実を拾ってとち餅を作るのだそうだ。
灰汁抜きが大変で、とち餅づくりの最大のポイントだという。
いまだにこんな都会で自然の恩恵を受けている人がいるのだ、
と思う。そういえば、西東京に住んでいたとき、4月の下旬だったか、
酒屋でかしわの葉を束ねて売っていたのを見たことがある。
まだ、手作りのかしわ餅を作っている人がいるのだという。
わたしもひとつとちの実をいただいた。何日かすると乾燥して三つに
割れて中の黒い実が見えてくるのだという。こういう観賞は
奥が深いように思えてくる。