1972年の夏のこと

子供の頃、父は国鉄に勤めていた。年に2回、慰安会というのがあって
劇場を貸し切って家族を招待していた。そこは日劇であったり、
浅草の国際劇場であったり。なんとも悠長な時代だった。
三橋美智也ショーやSKDのラインダンスなどを観ていた。
そのなかで一番記憶にあるのが新橋演舞場での「松竹新喜劇」。
わたしが観たのは「お客様お好みリクエスト上演」。
要は観客のリクエストに答えて演目を決めて上演するという、
企画だった。舞台にはいくつかの演目が書かれた札がさがっていた。
役者がそれぞれリクエストを聞きに客席を回る。わたしのところには
小島慶四郎が来た。「ぼくちゃんはなにがいいかな」。
松竹新喜劇の俳優は藤山寛美と小島秀哉、それに小島慶四郎
テレビで覚えていた。興奮して舞い上がってしまった。
小林信彦「喜劇人に花束を」(新潮文庫に演目が描いてある。
なにを選んだか覚えていないが、この演目一覧を眺めると
「村は祭りで大騒ぎ」って答えたのかな。並んでいる演目のいくつかは
テレビで観て知っていた。わたしのリクエストが小島慶四郎
通して藤山寛美に伝えられた。でも、結局「村は祭りで大騒ぎ」
は選ばれなかったが。演目が決まり、舞台が作られて
いくのを藤山寛美が解説してくれる。確か、自分の着替えも
観客の前で行われていたように思う。これがおもしろかった。
小林信彦によるとこの頃が藤山寛美の一番いい時期だったようだ。

喜劇人に花束を (新潮文庫)

喜劇人に花束を (新潮文庫)