「山怪」田中康弘

・田中康弘「山怪」(山と渓谷社)を読み終える。
 いやあ、面白かった。こういう山の怪談を集めた本って
 ありそうでなかったな。まあ、この本は怪談というのとは
 ちょっと違うか

田中康弘「山怪」(山と渓谷社

山怪 山人が語る不思議な話

山怪 山人が語る不思議な話

・この本に書いてあるけど、山に住んでいても不思議な体験をしたことが
 ないという人がいるという。そういう人たちからも丹念に聞き取りを重ねて
 いってなんらかの疑問に感じることを引き出している。そういうところが
 いいなあ。
          
・わたしも不思議な体験をしたことのない人である。山小屋にひとりで泊まって
 夜になって、あっここはいわくつきの場所だったことを思い出して眠れなく
 なったこともあるがなにもなかった。濃い霧の谷を歩いていて、ぼぉっと
 浮かび上がったのが遭難碑だったなんてこともあったが。
          
・20代のころ、夏になると東北の山に出かけていた。ある山を3日ぐらいかけて
 歩いて降りてきた。降りてきたところに××小屋という山小屋があるので
 そこに泊まる予定でいた。
・林道のはじまりにその山小屋はあった。看板はない。おばあさんが
 ひとりいたので声をかけた。「ここは××小屋ですか?」「いや違うよ」
 「××小屋はどこにあるのですか」「知らない」……というような会話を
 したのだが、実際は方言でおばあさんの言っていることがよくわからな
 かった。
・わたしは、地図で確認してもここが××小屋であると確信していた。他に
 建物は見当たらないし。
・「きょう泊めてもらえないですか?」「いやあ、女ひとりだから、男は
 止められない」と。もうあたりは暗くなってきたから、粘って泊めさせて 
 もらうことになった。
・部屋はひとつでまんなかに囲炉裏が掘ってあって、6畳ぐらいか。おばあさん
 のはなしによると夏のあいだ、林道工事で作業に入る人夫のまかないを
 している。いまはまだ工事が始まる前で、準備で小屋に入ったところだと。
・囲炉裏を挟んでわたしはシュラフに入って寝た。囲炉裏に食料が細いひもで
 つるしてある。それを狙って一晩中ねずみが挑戦していてうるさくて眠れ
 なかった。
          
・朝が来て、おばあさんとわたしはなんの関係もなく小屋をあとにした。
・林道をバスが来る集落まで降りてきたのだが、××小屋らしき建物は
 見つけることができなかった。
・あのおばあさんのいた小屋が××小屋だったのかは定かではない。