・田中康弘「山怪」(山と渓谷社)を読み終える。
いやあ、面白かった。こういう山の怪談を集めた本って
ありそうでなかったな。まあ、この本は怪談というのとは
ちょっと違うか
田中康弘「山怪」(山と渓谷社)
- 作者: 田中康弘
- 出版社/メーカー: 山と渓谷社
- 発売日: 2015/06/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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・この本に書いてあるけど、山に住んでいても不思議な体験をしたことが
ないという人がいるという。そういう人たちからも丹念に聞き取りを重ねて
いってなんらかの疑問に感じることを引き出している。そういうところが
いいなあ。
*
・わたしも不思議な体験をしたことのない人である。山小屋にひとりで泊まって
夜になって、あっここはいわくつきの場所だったことを思い出して眠れなく
なったこともあるがなにもなかった。濃い霧の谷を歩いていて、ぼぉっと
浮かび上がったのが遭難碑だったなんてこともあったが。
*
・20代のころ、夏になると東北の山に出かけていた。ある山を3日ぐらいかけて
歩いて降りてきた。降りてきたところに××小屋という山小屋があるので
そこに泊まる予定でいた。
・林道のはじまりにその山小屋はあった。看板はない。おばあさんが
ひとりいたので声をかけた。「ここは××小屋ですか?」「いや違うよ」
「××小屋はどこにあるのですか」「知らない」……というような会話を
したのだが、実際は方言でおばあさんの言っていることがよくわからな
かった。
・わたしは、地図で確認してもここが××小屋であると確信していた。他に
建物は見当たらないし。
・「きょう泊めてもらえないですか?」「いやあ、女ひとりだから、男は
止められない」と。もうあたりは暗くなってきたから、粘って泊めさせて
もらうことになった。
・部屋はひとつでまんなかに囲炉裏が掘ってあって、6畳ぐらいか。おばあさん
のはなしによると夏のあいだ、林道工事で作業に入る人夫のまかないを
している。いまはまだ工事が始まる前で、準備で小屋に入ったところだと。
・囲炉裏を挟んでわたしはシュラフに入って寝た。囲炉裏に食料が細いひもで
つるしてある。それを狙って一晩中ねずみが挑戦していてうるさくて眠れ
なかった。
*
・朝が来て、おばあさんとわたしはなんの関係もなく小屋をあとにした。
・林道をバスが来る集落まで降りてきたのだが、××小屋らしき建物は
見つけることができなかった。
・あのおばあさんのいた小屋が××小屋だったのかは定かではない。